ミズのぼんぼん

仕事帰りに時々寄る、美味しい和食とクラフトビールのお店。
わくわくしながらまずはビールを選び、さてと、本日のお料理は…とメニューを見ると…ん?
耳慣れない名前がボードに書いてあります。
“ミズのボンボン”
みずのぼんぼん??
可愛い響き。でも何だろ。いろいろ想像が膨らみます。
謎のまま「すみません、ミズのボンボンって何ですか?」と尋ねると、「知らないですか? 知っていると思いますよ」と返ってきました。
「知ってる? 私、知ってる?」「ええ」「じゃあミズって山菜のミズですね。それは分かるけど…」

聞くと、ここの女性店主、つい数日前に山形のとある村の鄙びた温泉宿にふと思い立って泊まりに行ったとのこと。
そこは私の生まれた町からもそう遠く離れておらず、かなりの田舎で豪雪地。
もちろんまだまだ雪は降っていませんが、何でそんな僻地(あ、でももちろんとてもいい温泉地ですよ)を選んだのかも謎。それはここでは置いといて…。
泊まった翌日、彼女は朝市に出かけたそうです。
そこで、こぶのような赤い実をつけた見慣れぬ山菜を見つけ、そばにいた高齢の女性に「これ何ですか?」と尋ねると、そのおばあさんが「知らねの(知らないの)? ミズのぼんぼん」と答えたとのこと。
おばあさんの口真似をする店主の山形弁のイントネーションがばっちりで、「ぼんぼん」の後ろの「ぼん」を強く言うところがすごく可愛くて、思わず「かわいい~」と言うと、店主も「そうなのよ! 響きがすごく可愛くて」そのミズのぼんぼんをたくさんお買い上げ。もちろん響きが可愛いだけでなく、おばあさんから「うんまい(おいしい)よ」とお墨付きをもらったからなのですが。

さっと茹でてからそばつゆなどに一晩漬けるだけで美味な1品になります。
この日は白だしに漬けたものをいただきました。
瑞々しい歯ごたえで、とろっとした粘りとわずかな苦みがあるのが絶妙でくせになる味。箸が止まりません。
ミズのぼんぼん。「知っていると思いますよ」と言われましたが、実は私、知りませんでした。山形在住の頃、ミズは初夏に茎をお浸しとかでよく食べていたのですが、秋の実を食べたことはなかったように思います。
名前もしかり。ただこのネーミングはこの土地ならではのもののようで、調べると秋田とかでは「ミズの子」とか「ミズこぶ」と呼ばれているよう。でも私は「ぼんぼん」が好きだなあ。

故郷である山形の山菜の実を、東京のお店で食しながら、初めてとはいえ懐かしいような気持ちになりました。
そして、「知らねの? ミズのぼんぼん」と言った朝市のおばあさんを想像し、そのフレーズを何度も心の中で繰り返しながら、他のお料理も、ビールも堪能しました。
ちなみにこの日飲んだのは長野と奈良のクラフトビール。ごちそうさまでした。

ミズのぼんぼんとビールで幸せ。